小泉八雲と『怪談』
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の代表作『怪談(Kwaidan)』は1904年4月に、ボストンとニューヨークに拠点を置く、ホートン・ミフリン社から出版されました。同じ年の9月26日に八雲は逝去したので、〈2024年〉は『怪談』出版・八雲没後〈120年〉という節目にあたります。
『怪談』には、原話をもとにセツが「ヘルン言葉」で語り再話された物語作品、エッセー、昆虫に関する随想の三種の作品群があわせて20編収められています。なかでも「雪女」や「耳なし芳一」は作者以上に作品の知名度は出色です。シンプルな文体で怪奇の美と恐怖を語り、人間と異界とのつながりの感覚を示唆する同書は、多くの言語に翻訳され、世界中で読み継がれています。
八雲は新宿西大久保の書斎でこの本を書きました。しかし、「雪女」「ろくろ首」などの妖怪に、民俗学者として興味を示したのは松江時代のこと。その意味で松江は「怪談のふるさと」です。
「超自然の文学には一面の真理(truth)があり、その真理に対する人々の関心は不変」(東大講義)だと、八雲は展望します。分断や戦争、地球温暖化など、人間中心主義の弊害に悩む現代こそ、この本を読みなおす価値があるのかもしれません。