企画展
怪談—ラフカディオ・ハーンとの邂逅
アイルランド・日本 交流美術展
2023年6月27日(火)―9月24日(日)
1階 展示室3
主催:Blue Moon Projects/小泉八雲記念館
共催:一般社団法人八雲会/松江市
協力:Culture Ireland
SO Fine Art Editions/Department of Foreign Affairs Ireland/The Office of Public Works in Ireland/駐日アイルランド大使館/東京藝術大学版画研究室/柳沢画廊/板津石版画工房/焼津小泉八雲記念館/山陰日本アイルランド協会
Ballinglen Museum/Lafcadio Hearn Japanese Gardens/Coastguard Cultural Centre Tramore/Hyde Bridge Gallery/Yeats Society Sligo/The Hunt Museum/Farmleigh Gallery
『怪談』は、1904年にパトリック・ラフカディオ・ハーン(1850-1904)によって出版されました。本展は、ハーンの『怪談』にインスパイアされたアイルランドと日本を拠点とする40名のアーティストが、それぞれに解釈を試みた版画と写真による美術展です。この企画は、スティーブン・ローラー、ケイト・マクドナー、エド・ミリアーノをはじめとするアイルランド人アーティストによって結成されたワーキンググループ「ブルー・ムーン・プロジェクツ」が主催し、主催者からのオファーを受けて小泉八雲記念館が開催するものです。
2歳で父の国アイルランドに移住したハーンは、アイルランドで過ごした幼少期を通じて口承文芸の伝統を吸収し、アメリカでジャーナリストとしての腕を磨き、さらに日本で多くの著作を書き上げました。中でも、『怪談』はハーン文学の集大成ともいうべき最高傑作です。
40名のアーティストは、「版画」と「写真」という媒体を通して『怪談』の各話に描かれている死の尊さ、恐怖、不可避性などを表現しようと試みました。その結果、彼らはこの奇妙で幽玄な物語を驚くような技法と解釈で、個性的な作品を生み出しました。
この展覧会を通して、ハーン文学を讃えるとともに、彼が日本とアイルランドの間に築いた文化的な絆をより強くし、現代アートの作品を通じて文化交流が促進することを期待しています。
また今後、焼津小泉八雲記念館、駐日アイルランド大使館など日本国内を巡回し、さらにアイルランドではトラモアの小泉八雲日本庭園やスライゴのイェイツ・ミュージアム、ダブリンのファームリー・ハウスなど5会場での巡回展が予定されています。小泉八雲記念館が、ハーンの173回目の誕生日に「怪談―ラフカディオ・ハーンとの邂逅」展のオープニングを迎えることはとても光栄なことです。
展示品
- アイルランド在住作家:20点(版画18名、写真2名)
- 日本在住作家:20点(版画18名、写真2名)
- 合計:40点
ごあいさつ
「怪談――ラフカディオ・ハーンとの邂逅」は、日本とアイルランドをそれぞれ拠点とするアーティスト20人ずつによる版画作品を集めた企画展です。小泉八雲としても知られるパトリック・ラフカディオ・ハーン(1850–1904)によって1904年に出版された有名な著書『怪談』を視覚的に解釈した多くの作品が一堂に会します。
2017年、アイルランドのアーティスト、スティーヴン・ローラーは、W.B.イェイツの詩を題材にした作品展を東京で開催しました。彼はそこで初めて、作家であり翻訳家であり教師でもあったラフカディオ・ハーンの存在を知ることになります。アーティスト仲間のケイト・マクドナーとエド・ミリアーノとともにワーキンググループを結成したローラーは、ハーンの著作にインスパイアされた展覧会の企画を開始しました。
アイルランドは伝統的に「語り(ストーリーテリング)」の国として有名であり、それは同国の民俗・文化に深く反映されています。アイルランドで幼少期を過ごしたハーンは、その語りの伝統を吸収し、米国で若き作家として腕を磨き、その後、日本で数々の代表作を書き上げたのでした。
参加した40人のアーティストは、ハーンの傑作『怪談』に収録された物語をひとつずつ選び、それに現代版画や写真といった媒体を通して取り組みました。彼らの驚くほど多様な技巧と心に響く解釈には、奇妙で幽玄な物語の数々について熟考した痕跡が刻まれています。
複数の作品が取り上げる「むじな」には、赤坂通り沿いの寂しい坂道で、道ゆく油断した人々を待ち伏せする、悲しげで特徴のない顔の女性の姿が描かれています。アリス・マーの描く「ろくろ首」は、5人の怪物の宙に浮く頭が喚起するおそろしさとおかしさの両方に向き合ったもので、絡み合った髪は彼らの住む森を表し、「邪悪な計画の大きな結び目」を作り出しています。
「十六桜」で述べられているように、湯浅克俊の作品には、死と満開の桜の美しさのような「均衡がこの世に存在していた」ことを知った安堵の気持ちが描かれています。宮本承司の作品は、「耳なし芳一の話」に描かれた芳一の孤独に深く心を打たれて作られたものです。
『怪談』の物語は、古くより伝わるものから、地方にのみ伝わる民話までさまざまですが、ハーンが紡いだ言語はどれも視覚形式へと翻訳する喜びのあるものになっています。
この怪談展の目的は、アイルランドにおけるラフカディオ・ハーンへの注目をより本格的なものにするとともに、その非常に優れた評価されるべき作品を、偉大なアイルランド文学の殿堂へと高めることにあります。本展は、日本とアイルランドでの大規模な巡回を通じて両国の文化交流をより緊密なものとし、2022年6月に発表されたアイルランドと日本の政府間の共同声明「共通の野心によるパートナーシップの前進」で示された抱負を基に開催するものです。
このプロジェクトは、Culture Ireland 、SO Fine Art Editions、Office of Public Works in Ireland、アイルランド外務省とのパートナーシップにより、日本国内5会場、アイルランド国内5会場を含むまでに発展しました。このたび、松江と焼津の小泉八雲記念館で怪談展が開催されることをとてもうれしく思います。
スティーブン・ローラー
ブルー・ムーン・プロジェクツ代表
怪談がつなぐ、日本とアイルランド
地球半周を超える片道切符の旅をし、39歳で日本の土を踏んだパトリック・ラフカディオ・ハーン(1850-1904)。彼は、最初に住んだ西日本の城下町松江で、太陽や月に柏手を打ち、盆に帰還した祖霊を大切に祀る、信心深い素朴な人々の姿に出会いました。また同地に伝承される豊富な超自然の物語に魅了され、日本の〈見えざるもの〉の文化に興味と共感を抱いたのです。
ハーンはその後14年間の日本での生活の中で、たくさんの怪談を採集し、文学としての魂を吹き込み、再話文学作品として発表していきます。ハーンの没年である1904年に出版された『怪談』には、17話の超自然をテーマとする再話作品やエッセーが収録されました。ハーンは、怪談は単なるホラーストーリーではなく、人々の哀しみ、愛情、生死、魂についての考え方など、日本の民衆文化を伝える有益な速記録だと考えていたのでしょう。
彼の怪談への関心のきっかけは、アイルランド時代に遡ることができます。コナハト出身の乳母、キャサリン・コステロが幼いハーンに怪談や妖精譚を語り、そこに至福の時間を見出していたのです。だからゴーストリー・アイルランドというべき文化環境に育まれたハーンが、アニミズム信仰が豊かに残るゴーストリー・ジャパンの文化に共振したことは、必然だといえます。
私は、文学は鑑賞、研究、顕彰の対象という枠組みを超えて、さまざまな社会的活用ができると考えています。このたび、小泉八雲記念館はブルー・ムーン・プロジェクツとの共催で、ハーンの『怪談』にインスパイアされたアイルランドと日本のアーティストによる作品の展覧会を行うことになり、松江と焼津など複数の会場でこの展覧会が実現することをとても嬉しく思います。このアート展がハーン作品の評価に新境地をひらき、日本とアイルランドの文化芸術交流の促進に寄与することを確信しています。
超自然の物語には一面の真理があり、それに対する人々の関心は、将来科学万能の時代が来ても変わらないだろうと予言したハーンですが、現代はまさにこの予言通りの時代ではないでしょうか。慢性的危機の時代である現代を生き延びるためにも、怪談が何らかのヒントを与えてくれるかもしれません。怪談は異界から人間世界を照射し、人間の生き方の方向性を示唆する側面もそなえていると思うからです。
小泉凡
小泉八雲記念館館長
参加アーティスト
アイルランド在住
- 秋野陽子
- アルヴァ・バレット
- ヌーラ・クラーク
- ニーヴ・フラナガン
- リチャード・ゴーマン
- リチャート・ローラー
- スティーブン・ローラー
- シャロン・リー
- ケイト・マクドナー
- アリス・マー
- エマージーン・マコーマック
- ジェームズ・マクレアリー
- エド・ミリアーノ
- ニール・ネセンズ
- ケルビン・マン
- デイビッド・クイン
- バーバラ・レイ
- ロバート・ラッセル
- アメリア・スタイン
- ドミニク・ターナー
日本在住
- 波能かなみ
- 原陽子
- 広沢仁
- 伊藤彩
- 木村真由美
- 松井智惠
- 三井田盛一郎
- 宮嶋結香
- 宮本承司
- 小川淳子
- オ ジュン
- 大杉祥子
- 齋藤悠紀
- ミヒャエル・シュナイダー
- スーディ
- 高橋梓
- 高橋洋
- 渡邊加奈子
- 渡部敏哉
- 湯浅克俊
アイルランド在住作家の作品
日本在住作家の作品
巡回予定
2023年 | 6月27日(火)―9月24日(日) | 日本 | 小泉八雲記念館 | 島根県松江市 |
10月14日(土)―2024年1月8日(月) | 日本 | 焼津小泉八雲記念館 | 静岡県焼津市 | |
2024年 | (詳細未定) | 日本 | 柳沢画廊 | 埼玉県さいたま市 |
4月18日(木)―5月24日(金) | アイルランド | Ballinglen Museum | メイヨー | |
5月31日(金)―7月12日(金) | アイルランド | Lafcadio Hearn Japanese Gardens & Coastguard Cultural Centre Tramore | ウォーターフォード | |
7月30日(火)―8月30日(金) | アイルランド | Hyde Bridge Gallery, Yeats Building | スライゴ | |
12月3日(火)―2025年2月22日(土) | アイルランド | The Hunt Museum | リムリック | |
2025年 | 3月6日(木)―8月24日(日) | アイルランド | Farmleigh House & Estate, Art Gallery | ダブリン |
(詳細未定) | 日本 | 駐日アイルランド大使館 | 東京都新宿区 | |
(詳細未定) | 日本 | 大阪・関西万博 | 大阪市 |